【第二回(前編)】

第二回目の今回は、株式会社日建設計顧問の林 和久先生をお迎えして、
図書館内のカフェスペースで西日本初のスモーブロー専門店「スモーブローキッチン」で、
中之島図書館の設計と建設の指揮を執った野口孫市の話から当時のエピソード、
関係者たちの様々な思いなど、大変に興味深くドラマティックなお話をおうかがいしました。

聞き手は株式会社アスウェル専務取締役黒川哲子

知の殿堂

黒川哲子
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日建設計と中之島図書館は、設立時より切り離すことのできないとても重要な繋がりがあります。今日はそのあたりからお話をお伺いできれば、と思います。

林先生

中之島図書館の設計・及び直営による施工は、当時の「住友本店臨時建築部」というところが担当しました。「臨時」と言う名の通り、建物が完成した時点でその組織は解散するのですが、当時は重要なプロジェクト毎に「臨時」の建築部を作ることが一般的で、住友本店及び住友銀行本店ビルを作るために「住友本店臨時建築部」が設立されました。この「住友本店臨時建築部」が現在の「日建設計」の源流となるわけです。
住友は、この「住友本店臨時建築部」設立のために「野口孫市」と言う建築家を招聘しました。

黒川哲子

野口孫市さんは、西洋建築を学ぶために、住友に招聘された後、直ちに欧米への視察に赴いたと聞いています。

林先生

「野口孫市」と言う人物は、明治時代の建築界の元勲「辰野金吾」のもとで建築を学びました。ちなみに辰野金吾は、明治36年に竣工された「日本銀行大阪支店」の設計者です。その「辰野金吾」の推挙もあって招聘されたと言われています。
当時の大阪の街並みは、木造建築でせいぜい2階建ての商家や町屋が立ち並ぶ景観でした。そこに、西洋古典様式の図書館を建てると言うプロジェクトは、とても大きな使命と期待が込められていました。
彼は先ず、約1年に及ぶ欧米建築事情の視察に派遣されます。

黒川哲子

当時の日本の社会情勢は、日清戦争勃発や金融不安などによる激動の時代でした。西洋の建築技術を学び、近代化を図る上で野口孫市さんにかかる期待は非常に大きなものだったわけですね。そして、その期待に十分応えるお仕事をなされました。

林先生

欧米視察で学んできた事を、彼は迷うことなく設計に採用していきます。
先ず彼は「知の殿堂」の象徴的建築とするため、後期イタリア・ルネサンス期の建築家パッラーディオを源流とする様式を採用します。パッラーディオ設計による代表的な建築物としてヴィラ・ロトンダがあります。
このルネサンス期はローマ時代の建築の精神の素晴らしさや技術が復活する時代なのですが、そこでパッラーディオはヴィラ・ロトンダを設計するにあたり「理想の原形」を古代ローマ時代のパンテオンに求めたわけです。

黒川哲子

中之島図書館正面玄関にそびえ立つ柱は古代ローマパンテオンを彷彿とさせてくれます。

林先生

ところでヴィラ・ロトンダの用途は何か。
それは所謂「サロン」なのです。ここは、音楽を聴く、詩を朗読するなどの高等的な芸術の場で、知的な空間の象徴として、ヴィラ・ロトンダが存在したわけです。
このことは、後世の建築に多様な形で影響を与え、19世紀後期のアメリカへも飛び火しています。建築家であり大統領であったジェファーソン設計のバージニア大学図書館、マッキム・ミードアンドホワイトが設計したコロンビア大学図書館などにそれを見ることができ、大学や図書館のシンボル的な様式としてパッラーディオ様式が取り入れられてきました。

黒川哲子

野口孫市さんの設計の意図が少しずつ見えてきました。パッラーディオ様式を取り入れることが「知の殿堂」を象徴する重要な要素となるわけですね。それをこの中之島の地に持ち込んだ。

林先生
中之島図書館正面図参考資料1[中之島図書館正面図]

はい。それでは、これから少し具体的なお話をしたいと思います。
この資料(参考資料1[正面図])をご覧ください。
ここでaで示された部分は長さを表しているのですが、高さがa、横幅もaですので正方形となります。この正方形が三つ並んでいます。

 
中之島図書館断面図参考資料2[中之島図書館断面図]

さらに、奥行きもaですので、すなわちこれは立方体になるわけです。
次に正面玄関にコリント式の柱が並ぶのですが、このエンタブラチュアの上部から線を内部にひいてきた中心と、現在の3階となるフロアの床までの距離を半径とした球体の空間が存在するのです。

黒川哲子

これはすごい。驚きです。
このことは林先生が発見されたのですか?

林先生

はい、これも含め「野口孫市の建築術」として論文にまとめようと思っています。
これらの設計は、ヴィラ・ロトンダにも当てはまり、パンテオンの考え方も導入されているのです。
この様に、野口孫市は数的世界や幾何学を設計に用いることを引き継いでいるのです。

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参考資料3
[アンドレ・パッラーディオ設計 ヴィラ・ロトンダ]
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参考資料4
[パンテオン(古代ローマ時代 128年)]

黒川哲子

これから論文にまとめていかれるドラマティックなお話を、この場で聞かせて頂けて、とても光栄に思います。

本日のゲスト

林 和久
日建設計 顧問
写真:右より林先生、黒川